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3.抱球(パオチュウ)

 抱球とは、ボールを抱えるという意味で、楊式太極拳の基本の形です。

 「抱」という文字を使う中国語の一つに「懐抱嬰児(ホワイパオインアル)」という言葉があります。これは、「懐に赤ちゃんを抱く」という意味です。ここで、赤ちゃんを抱いている状態を想像して下さい。大切に胸の正面で赤ちゃんをやさしく抱いているでしょう。胸の正面から離れた腕の端っこの方で赤ちゃんを抱くことはありません。「抱球」も同じです。胸の正面でボールを抱える形を作ります。太極拳で最も近い形は「雲手」でしょう。例えば、左手が上で右手が下で赤ちゃんをだっこし、「いい子、いい子」と左右に動かしてあやしている状態です。この左右に動かすとき、赤ちゃんは左右に動いても、抱えているお母さんは、常に自分の身体の正面に赤ちゃんを抱えています。つまり、赤ちゃんを左右に動かすとき、お母さんは身体を回転させ、赤ちゃんと自分の位置関係は変化しないようにしているのです。

 太極拳の「雲手」のとき、手だけが動き、あるいは手の動きが大きすぎて両手で抱えているボールが身体の正面からずれてしまうことがあります。これは修正して、常に、身体の正面にボールを持つようにしましょう。そのためには「用中(ヨンゾン)」という身体の中心を使う(回転させる)という考えを思い出しましょう。

 

 もう一つ、太極拳で使われる言葉に、「懐抱魚頭、手棒魚尾(ホワイパオユートウ、ショウパンユーウェイ)」と言うのがあります。これは太極拳の動作の中での形を示したものです。ここで「魚」とは、太極図に示させる2匹の魚のことです。言葉の意味は、「魚の頭を懐に抱え、魚の尾を手で捧げる」という意味です。太極拳の野馬分鬃(イエマーフェンゾン)で左足前の弓歩で左手が前、右手が右腰の横にある時の状態や、摟膝拗歩(ローシーアオブー)や雲手(ユンショウ)の動作の途中で、片手が胸前、片手が大きく開いている場合を考えてください。この時、懐から胸前の手の円で魚の頭を抱え、開いた手は魚の尾を支え挙げている状態ということです。これを意識することで、身体の前の空間を丸く大きくする意識が生まれてきて、動きがゆったりとおおらかになってきます。