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60.伸張反射

 練功十八法には「双手托天」という両手を組んで頭の上に挙げ、身体を横に曲げる運動があります。この運動をするとき、両手を頭の上に挙げると、背中が緊張します。その緊張をしたままで運動してはいけません。身体の緊張を取って背中を柔らかくしてから、横に曲げるようにしましょう。

 

 人間の身体は「伸張反射」という反応があります。この反応は、脊椎の反射の一つで、筋肉が引き伸ばされると、その直後に、筋肉が収縮するという反応です。立った位置のままで、より高く飛び上がる「立ち高跳び」という運動がありますが、この運動をするときには、必ず一旦しゃがんで上に飛び上がります。この「しゃがむ」動作は、膝を通して太ももの筋肉を伸ばすことになり、その反射として筋肉が縮むことを利用した運動です。私たちは、無意識にこの伸張反射をつかっているのです。しかし、太極拳では、緩やかな動きをしますので、この伸張反射が身体の中で起こらないように、気を付けて動作する必要があります。 

 

 そのためには、身体の末端から動き出すことが大切です。先生は三節(上三節)のお話をされました。これは身体の、肩、肘、手の部分をいいますが、肩を「根節」、肘を「中節」、手を「梢節」と呼びます。各部分の働きは、梢節を「起」とし、動きのはじまりの役割を持っています。中節の働きは「随」とし、梢節の動きに従う役割を持っています。根節の働きは「追」とし、梢節や中節の動きを促す役割を持っています。先生は、頭を中心にした同心円を描き、肩の動く円、肘の動く円、手の動く円が調和して動くことの大切さを教えてくれました。

 

そして次のような動作を私たちにさせ、その違いを実感させてくれました。まず、準備として真っ直ぐ立って、両手を左右に広げます。そして片方の手を身体の正面まで持ってくる動作を、次の2つの方法でさせました。

 

1つ目の動きは、肩から回転を始め、肩の動きに引っ張られるようにして、肘や手が動く方法です。2つ目の動きは、まず手が動き、その動きにつれて、肘や肩が動く方法です。この2つの動きの違いは明確に分かりました。1つ目の動きでは、肩のまわりの筋肉が緊張していましたが、2つ目の動きでは肩のまわりに緊張はありませんでした。三節の役割を実感する練習でした。