· 

65.綺麗に立つ

サッカーW杯において、日本の選手が使ったロッカールームや、日本人観客が坐っていた観客席において、試合終了後、ゴミ一つない綺麗な状態であったことが、ロシア人だけでなく世界中の人々から賞賛されているそうです。

 太極拳も「綺麗」であるように心がけてほしいと先生は言われました。太極拳では、「削り取って綺麗にする」ことを意味するとのことです。つまり、無理、無駄をしない、整っている、クリーンであることが求められるということのようです。そのためには、「しっかりと立つこと」が肝要であると言われました。「站」という字は、「一か所を占めて立つ」という意味です。どのように立つかというと、「綺麗に立つこと」だということでした。「站功(ジャン・ゴン)」という言葉があります(「站樁功(ジャン・ジュァン・ゴン)」ともいう)。これは「立ち方の練習をする」という意味だそうです。太極拳の動作の中で、一つ一つの動作が止まった瞬間を立つ練習をする時であると心がけて、動作することが大切なのだそうです。その瞬間に、片足であれ、両足であれ「綺麗に立てたら」、次の動作を行なうことということです。歩くということは、片足に重心を乗せ、もう一方の足を動かすことです。この観点からすると、通常、私たちが歩いている動作は、正しくは歩いているとは言えません。それは、重心を移動しながら足を前に出しているからです。重心を前に移動し倒れそうになるのをもう一方の足を出して倒れないようにしながら、前に進んでいる動作です。そのため、前に出す足が何かに引っかかって前に出せないと、重心は既に前に移動し始めているので、元に戻せずころんでしまうことになるのです。

 私たちは、歩く練習をしました。片足で立った時にグラグラするので、最初は片足になった時、軸足の少し前にもう一方の足のつま先を着き、上体がグラグラしないようにして、ゆっくりと軸足一本で立てるようにし、それを確認してから、もう一方の足を前に運び、前の足の踵が地面に着く直前に体重移動を始めるように教えられました。体重移動の開始時期は、出した足の踵が地面に着いてからと思ってましたが、そうすると身体全体の動きが一瞬停止してしまうので、先生は体重移動の時期を一瞬早くするのだと説明してくれました。私たちは弓歩(ゴンブー)からの前進、後退を繰り返し練習し、やがて軸足の横に置いていた足を、その位置に置かないで綺麗に立ち、スムーズに足を前や後ろに運ぶことが出来るようになりました。

 

 綺麗に立てて、綺麗に足を出せれば、綺麗に動くことが出来るようになり、その時は手も綺麗に動かせるようになると先生にいわれました。