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81.前虚后実

 先生は「太極拳においては虚実分明が大切である」と言われました。虚実は消えることは無く、どちらかが実になる、その実と虚を明確に分ける意識を持つことが大切だと言われました。動いている時は軸足を意識するので、虚実は比較的分かりやすいし、意識もしやすいのですが、静かに立っている時の虚実は、なかなか意識できません。先生は身体の後ろを実にすれば、前側が虚になることが分かるといわれました。そして足を肩幅に開いた状態で体重を踵の方にかけるようにすると、背中側が実になるという感覚はつかめました。しかし、同時に身体のおなかの側が虚になるという感覚はつかめませんでした。先生は、腹式呼吸をしてみるようにいわれました。腹式呼吸は、後ろが実の時でないとできないといわれました。私は腹式呼吸はできたので、後ろを実にすることができているのは分かりましたが、前が虚であることの感覚はつかめませんでした。繰り返し、意識して、練習するしかないのだろうと思いました。

 

 また、先生は私たちに片足で立つ練習をさせました。これは左右の虚実を意識することだなとすぐに分かりました。足を肩幅に開き、体重を右足に乗せて左足を浮かせる、次にその逆をするという運動です。右足に体重を移していく時に100%の体重が右足に乗るまで、左足を動かしてはいけない。これが、なかなか難しい動きでした。ほとんどの体重が右足に乗った時点で、右足に少し力を入れれば左足を浮かせることができます。または、上体をほんの少し右に倒すことでも左足を浮かせることができます。私たちは日常の生活ではこのような動きをしています。ですから、太極拳の時にその癖がでてしまうのです。100%右足に体重が乗るまで待つことはなかなか辛抱が必要な事でした。でも、それが出来た時はとても気持ちの良いことでした。

 

 

更に先生は、動きの中でも軸足に100%体重が乗るまで、反対の足を動かさないようにできる秘訣を教えてくれました。それは、軸足の外側のくるぶしの方向へ体重を移動させることでした。軸足の外側のくるぶしの方向に体重を移動させるときに、多くの動作において、その方向に手を出すようになっていることにも注意を向けるように教えてくれました。手の動きを利用して、体重を移動すれば、比較的楽に軸足に体重を乗すことが出来ました。これを練習すれば、落ち着いて動作が出来ると思いました。先生は、「動きが安定すれば、心が安心し、手を自由に動かせるようになる。」と言われました。