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83.后坐

 先生は、老子の言葉に次のような言葉があると紹介されました。

「道法自然(道は自然に法る):[人法地、地法天、天法道、道法自然]」

これは、人は本来あるがままであるのが良い、という意味であるということで、身体のつくりの説明をされました。腕の付け根は肩ではなく、鎖骨の付け根であり、足の付け根は股関節ではなくお尻であるということです。腕を動かすときは、肩から動かすのではなく、付け根である鎖骨の付け根から動かすのが自然であり、また、足を動かすときは、股関節から動かすのではなく、付け根である腸骨あるいは仙腸関節から動かすのが自然であるということでした。

 そして、太極拳の具体的な動作において、そのことを教えてくれました。最初は、胸前にボールを持つように両手が同じ高さで水平に円を描いている状態からの動きです。まず、鎖骨の付け根を後ろに押します、そうすると、肩甲骨が後ろに押されるようになり、肩の幅が広がり、更に両腕が前に伸びて、大きな円をつくることができるようになります。このように、後ろに重心を移し身体の後ろ側を広げることを「后坐(ホウズオ)」と言うそうです。后坐が出来ると気持ちが良くなるということでした。

 次に先生は動きの中での后坐を教えてくれました。例として取り上げたのは

弓歩からの動きでした。左足前の弓歩から、体重を後ろ脚に掛けるときに后坐をするように言われました。後ろ脚に体重を移していく時に、移されてくる後ろの足のどこで体重を受け止めるかということです。私の今までの動きでは大部分の体重を膝で受け止めていたことを知りました。先生はその体重を膝とお尻(仙腸関節)で半々に受け止めるように教えてくれました。こうすると体全体の体重が今までよりも後ろ脚の踵にかかってきて身体が不安定になり、次の回転にもスムーズに入れませんでしたが、何度か練習するうちに踵に体重が乗っていても腰の回転で足が回ることを知りました。

 更に先生は、後ろに下がる動作(倒捲肱:ダオジェンゴン)について教えてくれました。後ろに引いた足のつま先が地面についた時、腰を回転させないで体重を後ろ脚にかけていき、踵が地面に着く直前に腰を回転させるようにするのです。これも今までとタイミングが違うので、とても戸惑いましたが少しづつコツが分かってきたように感じました。

 このように、何が自然な動きなのかを考えさせられた練習でした。今までの癖が身についているので、今までの動作のどこが自然ではないのかを知ろうとしなければ、つかめないことだと思いました。気が付くことが大変難しいテーマだと感じました。