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84.手だけで半分

 先生は、漢字の構成からその文字の本来の意味をいろいろ教えてくれました。

例えば、「智慧」という言葉について。「慧」の字の心を除いた上の部分は「ほうき」を意味し、文字全体では「ほうきの心」と言う意味になる。では「ほうき」にはどういういみがあるのか。「ほうき」は細かな枝の集まりでできていることから、「こまやか、繊細」という意味になる。「慧」の意味は「細やかで繊細な心」ということになる。智慧の「智」の字は「知」と「日」から出来ている。正しくは「日」ではなく「曰(いわく)」である。「知」は「矢」と「口」から作られている。「矢」は「的を得る」の意味で、これと「口」が合わさった「知」に更に「曰」がついた「智」と言う字は、「的を得たことを言う」と言う意味になる。これらを合わせて「智慧」とは、「細やかで繊細な心を持って、的を得たことを言う」という意味になる。

 

 太極拳は「武術」である。「武」とは「矛を止める」即ち「戦いを止める」と言う意味である。また「術」は「行」と言う字の間に「朮」という字をいれたものである。「朮」とは歩いている間にベタベタと引っ付くものと言う意味で、これらを合わせて「武術」とは、「戦いを止めるために身体についたもの」という意味になる。決して戦いに勝つとか、相手をやっつけるとかいう意味ではない。

 

 特に太極拳では、自分の中で争いを無くすようにすることが肝要であると先生は注意しました。私たちの動きに中では、特に手の動きと胴体の動きとの間で争いが起こりやすいということでした。基本は「手は身体の横にあること」だそうです。身体を回すときに手を置き去りにして胴体だけを回すと肩と手の間につっぱりが起きるし、手が早く動くと手と胴体の間が窮屈になります。

 

胴体の動きと手の動きを調和させることは非常に難しいので、当面のやり方として、先生は「手だけで半分」ということを教えてくれました。これは、一つの動作で手が動く範囲の半分は、胴体を動かさずに手だけを動かし、残りの半分は手と胴体を一緒に動かすという動きの方法です。そして、ローシーアオブやユンショウの動作でこの動きを練習しました。タイミングを取るのがとても難しく、教室では満足にはできませんでした。