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88.「inner peace」

大阪なおみ選手、第2セットを落としたあと、トイレ休憩をとり、出てきた時は全く表情が違っていた。彼女は「感情をオフにした」といった。表情を変えないということは、心の動揺を無くすことである。「inner peace」という。「自心清静」ともいう。心に汚れが無く、波立っていない状態をいう。

自分で自分のこころを綺麗にして、波立てないようにする。これができることは素晴らしいことである。

「以静制動」と言う言葉がある。静けさを持って動きを制御する。この「動き」には自分の動きだけでなく、相手の動きも含まれる。「以静制動」を行うには、自分の身体と対話することが肝要である。

「体操」という言葉がある。「操」は木の上に小鳥が沢山いてうるさくさえずっていると言う意味である。「体操」は、身体をせわしなく動かすと言う意味であり、太極拳とは違う考えである。

 

「疾如風(疾きこと風のごとし)」と言う言葉がある。これと逆に、「緩如鷹(ゆるやかなること鷹のごとし)」という言葉もある。この両方をイメージして動こうと先生は言われ、具体的な動きとして次のような練習をした。

動作は「野馬分鬣(イエマーフェンゾン)」である。左足前の形から、身体を緩め左手上のボールをかかえ、下半身を左45°に回転するまでは、通常の動作である。その次からは、下半身を動かさないで手の動作だけをする。右手は左45°へ、手が伸びきる手前まで伸ばし、伸びきったら右へ回転させて正面まで持ってくる。この動作の中で、ボールをつぶして右手が左45°に行くまでは「疾如風」で素早く、右に回転するまでは「緩如鷹」でゆったりと大きく動かす。この動作を、左右数度練習した後、次の練習に入った。

次の練習は、右手が左45°に到達したところで上半身の動きを止め、右手を45°方向に伸ばしつつ、右足を前に出すことである。上体が左足に乗り切っているので、右足を動かしても上体がフラつくことはなかった。右足の踵が着いたらゆったりと右手の回転を開始した。とてもゆったりとした、気持ちの良い野馬分鬣の動作ができた。一つの動作の中につむじ風のように早く動く部分とゆったりと動かす部分が組み合わさっていることを知ってとても気持ちが良かった。

 

この練習によって「inner peace」が得られた感覚がどういうものであるかを知ることが出来たように思った。大切にしたい感覚である。