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119.肚をすえる

 先生は弓道のことからお話を始められました。弓道においては弓をもち、弦に矢をつけて、左右に引いて弓をしならせ、矢を持った手を放すことで、弓と弦でためられた力が放たれ、矢が飛び出していきます。この手を放す瞬間が非常に難しいとのことです。矢を放すべき最適な一瞬があるそうです。それを「その時」というようです。その時よりも早く矢を放つことを「早気(はやげ)」と言い、

 

 その時よりも遅く放つことを「遅気(もたれ)」というそうです。「一射打ったらその結果にかかわらず先に進む」という言葉もあるようです。

  

 太極拳は流れが大切です。その瞬間を逃さず落ち着いていることが大切で、これを「肚をすえる」というと先生は言われ、その動作を教えてくれました。

  1. 下腹部に力を入れて、腹を後ろに押す

  2. 腰を後ろに膨らませる

  3. 腰を下に押さえる

先生は①と②を合わせて、肚の位置を決めることから「肚を決める」、③を「肚をすえる」と呼ばれ、最初に「起勢」の動作でその練習をしました。腹は思った以上に大きく引っ込みました。腰を膨らませるのは、あまり膨らんだようには思えませんでした。腹が引っ込むと腹の前に空間ができます。この状態を先生は、体を意識するのか、自分の身体によって作られた空間を意識するのかと問われ、空間を意識することが大切であると言われました。空間を大きくしたり、小さくしたりするために手足を動かしているという認識と感覚は、すぐには沸いてきませんでしたが、意識しながら動いていると少しずつ感じられるようになって、面白い感覚を経験しました。

 

 また、先生は、体力には、「行動体力」と「防衛体力」があると言われ、次のように説明されました。行動体力は動くための体力で、防衛体力は身をまもるための体力であり、両立はしない。体が治りきるまでは防衛体力は下がる。両方の体力を上げるためには、休みながら動くことである。私たちは倒巻肱をしながら、どの動きが行動体力を使い、どの動きが防衛体力を使っているのか、要は、いつ体を休めているのかを体験しようとしましたが、私にはよくつかめませんでした。ただ、「肚を定める」と「覚悟する」を意識して、肚を引っ込めて軸足の腰を抑えるようにすると、軸足がしっかりとして、浮いた足をゆっくりと自由に動かせることは体験出来て楽しい気持ちになりました。