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120.中心を合わせる

 「私たちは、大切なものを持つときには、無意識に身体の正面で持つようにしている。」先生はこのようなお話から始めて、太極拳において手で作る空間の中心と体の中心である丹田は、常に向かい合っていなければならない。すなわち、手で作る空間の中心と体の中心は合わさっていなければならないということでした。私たちは、直径30cmほどのボールを持たされ、丹田とボールの中心を合わせる練習をしました。手を動かしてボールを回転させながらその動きの途中においても中心が合うように気を配りながら練習しました。

  

 ボールを使わなくなっても、両手が目の前にある時には、比較的中心を合わせることは簡単でしたが、手が大きく広がった時や、両手を同時には見ることができないまで手が上下や左右に広がった時には、空間の中心がどこなのかをつかむことが難しいと思いました。このような時、今の動作が、相手をどのように攻めているのか、あるいは相手の攻撃をどのようにして防御しているのかを考えると相手の体が想像でき、その中心がどこにあるかが想像できるだろうと思い、動作を続けながら、相手の姿をイメージしていました。しかし、なかなか明確な姿は見えないものでした。

  

 また、ボールを前に回転させたり後ろに回転させたりしました。ボールを回転させるため、ボールを持った両手が動きますが、前側の手は、正面のある高さまで下りてくるとそれ以上、下には動けないので斜め下に動くようになります。この時上体は、手の斜めの動きに合わせて回転をはじめます。この回転も自分の中心を軸として回転をするようにと教わりました。

  

 私は、片手を少し前に出すだけの運動なら、中心と関係なく動くのではないかと思い、休憩時間に片手を出したり引っ込めたりしました。手を出すだけでは丹田を意識することはないと思いました。しかし、もう少し遠くへ出そうとした時、そうではないことに気がつきました。手を前に出すために、私たちの身体は無意識に、少しではあるが体重を後ろに移動させていたのです。これは、小さな回転を伴っていたのです。体は前後左右、常にバランスを取るように動いていることにきがつきました。

  

 手は体の末端ですが、この末端が仕事をするのであり、末端が動きやすく、力強く動けるようにするのが体の中心の仕事であると教わりました。それぞれの役割を力強く行えるように鍛えるのが鍛錬であるとも教わりました。