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6.不怕慢、只怕站(プーパーマン、ジーパージャン)

 文明と文化の違いを考えてみましょう。

文明(civilization)は物や技術を捉えたものであり、文化(culture)は、精神を捉えたものです。文明の進化により強力な武器を持つと戦争をして領土を拡張しようとするかもしれませんが、文化を高めることで強力な武器を持っていても戦争はしないと考えることができるようになります。

 病気についても、文明の進化により、医療技術が進歩し、良い薬が発明されて病気を治すことが出来るようになりますが、文化を高めることによって病気にならないようにすることができるようになります。

 文化に対する英語の「culture」は、「耕す」という意味を持っています。自分の身体を耕す、即ち、柔らかく、気持ちよい状態にする、これが文化です。私たちはすぐに結果を求めたがりますが、身体という畑を長年かけて耕すことが大切です。

 中国の言葉に「不怕慢、只怕站」という言葉があります。これは、「ゆっくりをおそれず、停まることを恐れなさい」という意味です。少しでも良いから進んでいることが大切で、停まってしまっては得られるものはないということです。山に登るときに、裾野の比較的緩やかなところではどんどん前に進むことができますが、中腹以上になり、傾斜が急になると努力をしてもなかなか上には登れなくなってきます。この時に、ゆっくりでも進んでいればいつか頂上にたどり着くことができるでしょう。このゆっくりでも進んでいることが大切なのです。太極拳では、頂上に着いたと思っても、頂上に着くまでには見えなかった次の山が控えていて、どこまでも高みを目指すことができるようです。

 では、身体を耕すとは、どのようなことをすればよいのでしょうか。それは「身体の中の抵抗をなくす」ことです。すなわち、力を抜くことです。重たいものを持ち上げようとしたとき、腕の力だけで持ち上げようとすると、身体を痛めてしまうことがあります。胴体を使い、背骨をしなやかにし、腹圧を強くして全身の力とバランスで重たいものを持ち上げるようにするのです。何かの行動をとるとき、胴体を上手に使えないのは、動物の中で人間だけです。人間は立ち上がり、立って歩くようになったために、背骨の周りの筋肉を柔軟に使うことを忘れてしまいました。背骨の周りの筋肉を柔らかくし、背骨が自由に動かせるようになれば、腹にも力が入るようになり、手足に余分な力を入れなくても、大きなことができるようになるのです。全身を柔らかく、しなやかにする努力をしましょう。ゆっくりゆっくり、停まらず。