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10.安心と開放

 小高い丘の上にある大きな木に背をもたせかけ、遠くの景色を眺めている状態を想像して下さい。

 身体の体重は大きな木にかかっているので倒れる心配はなく、目の前は広々と開けてとても気持ちのいい状態でしょう。背中の方は「安心」しておれ、目の前は「開放」されている。この安心と解放を、太極拳の動作の中に創り出しましょう。体重を踵にかけ、あたかも大きな木によりかかっているように安心して立っていれば、体からは力が抜け、上体の機能を十分に働かすことができます。

 目は広々とした景色をゆったりと見ていることが大切です。見える景色のどこか1点に気持ちを集中させると、まわりにある他のものが見えなくなってきます。ぼんやりと全体を見るようにすると、視界の端に現れた変化もつかまえることができます。どこかに心が捕らわれていると、他の処には注意が行届かなくなるのです。

 体は、陰陽の考え方では背を陽、腹を陰としています。これは、四足で歩いていた頃、背が太陽にあたり、腹が陰になっていたことに由来していると思われます。一方、前は陽、後ろは陰ですので、人間が立って歩くようになってからは、背は後ろにあるが陽で、腹は前にあるが陰となりました。 

背を安定させ、全面を広々とさせることが、陰陽のバランスをとる意味でも重要です。前に向かって歩くとき、後ろに意識を持ってゆったりと歩くことが大切です。このように歩きながら、両手を上げ広げ、下げ閉じる動作や、背中を軸にして身体の方向を変える練習をすることが大切です。重心が落ち着けば安心ですし、心が放たれます(放心)。前に進むことを焦らないで、前方に進もうとする前に、「安心」するように心がけましょう。