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15.引進落空(インジンルオコン)

 引進落空(インジンルオコン)とは、相手の進行を引き込んで「空」(落とし穴)に落とすという意味です。この落とし穴は自分の軸足のすぐ隣にあります。

 左足前の弓歩からの野馬分鬃(イエマフェンゾン)を例にとって見てみましょう。重心を左7分右3分から左右半々に戻し、右足の踵を上げ、右膝を正面へ、更に左45°に蹴りだし、これにつれて左足つま先を左45°に開く時の動作です。手は左手上のボールをかかえています。左手を肘から落としていって、左腰の横まで下げていきます。この動作が、自分の左腰の横にある落とし穴に相手を引き込んでいく動作なのです。この時の左足の足の裏の重心のかかり方は、親指の付け根の裏→小指の付け根の裏→踵と移動し、最終的にはこれらの3点により、しっかりと体重を支える形となっています。つまり、自分の軸はしっかりとさせ、相手をそのすぐそばに落とし込んでいるのです。

 この時、体は左回転していますが、回転については、次のことに気を配ることが大切です。自転車やオートバイ(二輪車)はハンドルを切ると遠心力でその方向と反対側に倒れようとします。私たちも前の足を先に外に向けるとバランスを崩します。自動車は、向きを変えるときにハンドルを操作して、前の車の向きを変えています。一方、舟やホークリフトは舵やハンドルを使って後ろ側を動かすことで方向を変えています。太極拳は、舟やホークリフトと同じ方法を取らなければなりません。私たちは日常の生活では、方向を変えるときには、体の前側を目的に方向に変えることで実現していますので、身体の後ろ側を反対の方向に動かすことで向きを変えることに慣れていません。しかし、素早く向きを変えるには、後側を動かすことが肝要です。太極拳は戦いをしている中での動きです。素早く動くことが求められます。先ほどの野馬分鬃の例でいえば、左足に乗るときに左手を引き込みながら背中を右前に動かすように意識するのです。こうすれば、左足の軸は垂直のままで、回転も速く安定した動作となるのです。

 

 また、楼膝拗歩(ロウシーアオブー)のときは、左足前、右手が前の定勢から、体重を両足に半々にかけた後、右手を一気に左脇の下に引き込んで、相手を自分の左腰の隣になる「空」に引き込みます。足の動きは野馬分鬃と同じです。体に軸を維持するのが大変難しい動作です。