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8.バランスの良い運動

左足前の弓歩の野馬分鬃から右足前の弓歩の野馬分鬃までの動作を思い出してみましょう。

左足前の弓歩から体重を後ろに下げ左回転をして左足に乗ったときの状態から動作を詳細に観察してみましょう。左足は左45°の方向を向いています。左手が上、右手が下でボールを抱えています。このボールをつぶしながら、右手はどちらに出ていくのが正しいでしょうか。右足は浮いて正面に向かって出て行こうとしています。これとバランスするように左手は左腰の横におりてきます。左右のバランスは取れています。右手はこのバランスを壊さないで伸びていきます。すなわち、左足の向いている身体の正面(左45°)に向かって伸びていきます。これは右足の踵が地面に着くまでの間の動きです。右足が地面に着いたときから、右手は身体の回転に合わせて正面に回転していきます。それでは、右手が前に出るときの前後のバランスはどうなっているのでしょうか。右手が前にでるにつれて丹田を後ろに引き、わずかに腰が後ろに動きます。これで、前後のバランスも取れるのです。

 もう一つの事例を見てみましょう。倒捲肱(ダオジュエンゴン)において、右足(右45°に向けて)に乗り、左手は前、右手は丹田の定式から動き始めて、まず両手の掌を上に向けて左右に開き、次に右肘を折り曲げ耳の横に掌を近づけ、左手を正面まで持ってきます。この間に左足を上げて右足の横に近づけます。その後、左足を後ろに下げるときに、左手はどこに動かすべきでしょうか。左足とバランスを取るために、左足先と重心の乗っている右足の延長線上の右前の位置まで動かさなければなりません。

 

 このように、身体全体のバランスを取ることが、土台を安定させる手段なのです。例えば、天井に2つの電球が50cmぐらい離れて着いていたとします。この電球を2つとも取り替えようとしたとき、1つの電球の真下に台座を置き、その上に乗って電球を取り換えました。もう一つの電球も手を伸ばせば届くので、そのまま取り替えようとしました。この2つ目の電球を取り換えるとき、土台は安定しているとは言えません。まかり間違えば倒れてしまいます。手抜きをしないで、1つ目の電球を取り換えたら、一旦台座から降りて、もう一つの電球の下に台座を移動させてから、作業に入るようにしましょう。太極拳では、気づかないうちにこのような手抜きをしてしまいます。正しい動作を知るとともに、自分の動作を客観的に観察し、手抜きをしていないかチェックする習慣をつけましょう。