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18.提膝

私たちは何のためらいもなく足を上げるでしょう。そのとき、私たちは、足のどこの筋肉を使って足を上げているのか、全く気にしないのが普通です。ほとんどの場合、太ももの筋肉を使って足をあげています。一方、「片足で立って、膝を折った状態で膝を上げてください。」と言われると、私たちは、膝を意識して膝を上げて行きます。先ほどの「足を上げる」ときとの違いに気が付くでしょうか。「足を上げる」ときは、上げた足の太も「片足で立って、膝を折った状態で足をあげてください。」と言われたら、もは緊張していますし、上がった足の高さも高くはありません。しかし、「膝を上げる」ときは、膝は「足を上げる」ときより高く上がりますし、太ももの緊張はほとんどありません。これはなぜでしょうか。

 「足を上げる」とき、私たちが使った筋肉は大腿四頭筋でしょう。大腿四頭筋は本来、膝から下を伸ばすことに使われる筋肉です。しかし、太ももを引き上げる機能もわずかに持っています。私たちは「足を上げる」と思った時、大腿四頭筋を働かすように指示しているのです。本来、太ももを上げるための筋肉は、大腰筋という腰椎と大腿骨をつないでいる筋肉です。この筋肉は、深層筋(インナーマッスル)で、意志により動かせる筋肉ではないので、この筋肉を直接働かせるように意識して動かすことはとても難しい筋肉です。そこで、大腿四頭筋を働かせないように意識することで大腰筋を働かせるようにしたのが「膝をあげる」という言葉なのです。これにより、大腿四頭筋は動かなくなり、自然に足が上がる感覚となります。

 実際の動きの中では、足を前に出すときに、次のように使います。まず、軸足にしっかりと乗り、反対側の「おしりを丸め(斂臀:リェントン)、次に「膝を上げ(提膝:ティシー)」、最後に「下腿部を伸ばすイメージで足を伸ばす(伸小腿:シェンシャオトイ)」ようにします。このようにすれば、軸がずれることはなく、肩の高さが上下に変動することもなく、静かに足を運ぶことができます。後ろに下がる場合も、横に移動する場合も、基本的には同じことを行なえばよいのです。

 

私たちは、心身のことを理解することが求められています。それは、太極拳の練習は、心身の自由をもとめ、目指しているからです。心身がどのように作られているか知ることはとても大切なことです。