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23.站(ズァン)

 「站」(日本語の発音はタン)とは「立つ」、「久しく立ち止まる」という意味です。

 偏の「立」と旁の「占」からも分かるように、「ある一か所を占めて立つ」という意味です。太極拳において、片足、両足を問わず、立ち姿勢を保っている状態もこれにあたります。特に片足の時は、何もしないで、ただ片足で立っているだけであれば少しは立っていることが出来ます。しかし、動きの途中で、片足で立つと、次の動作のことが気にかかり、どうしても不安定になり、体が傾いたり、フラフラゆれたりします。これは、心が安定していないからだと言われます。片足になったときに、次の動作のことを気に掛けず、「ただ立っているだけ」と思うと、心が安心して穏やかになり、立っていることができるそうです。身体の重心線が身体の中心を貫いて、地球の中心まで達していると思うと、体は「站」を保つことができるのだそうです。

 片足で立つことは不安定なので気持ちの良いことではなく、どちらかと言えば「いやなこと」です。しかし、その「いやなこと」を繰り返し行って少しでも良い状態にすることが練習だと先生に言われました。「站」ができるようになれば、片足で立った状態で、両手やもう一方の足を動かしても、体がぶれることは無くなります。一歩前に進むために足を前に出すことが出来るのです。ただし、前に出した足が地面に着くまでは、「站」の状態を保つことが大切です。足を前に出すのだからと体重の移動を伴った足の出し方は間違いです。出した足が地面に着くまでは体重移動はしない。しかし、足が地面に着いたら、速やかに動作を始めなければなりません。

 

 中国の老子の言葉に、「知足不辱、知止不殆、可以長久(足るを知らば辱められず、止まるを知らば殆うからず、以って長久なるべし)」という言葉があります。満足することを知っていれば、辱めを受けず、止まることを知っていれば危険を免れられ、いつまでも長らえられる。という意味です。多分に精神的な面での言葉ですが、太極拳にも通じるところがあるということで、先生に教えていただいた言葉です。