· 

31.勁起于脚根

 「勁起于脚根」とは、力は(どこからスタートするかというと)足の根っこ(即ち踵)において起こるという意味です。続いて

「注于腰間」:起こった力は腰の間に注がれ(腰の間を

       通り)

「発于背」 :背骨で発せられ

 「形于手指」:手や指で形になる

という言葉が繋がり、力が生まれ、身体の中のどこを通って形となってあらわされるかを示しています。この中で大切なことは、身体の前面のことや、腕のことには触れていないことです。私たちが注意しなければならないのは、身体の後ろ側であるということです。

ここで、動物の立ち方について見てみましょう。蹠行動物という踵で立つ動物がいます。人間や熊、リスなどがこれにあたります。趾行動物というつま先で立つ動物がいます。ほとんどの動物がこの分類に入ります。蹄行動物という蹄で立つ動物がいます。馬や牛、鹿などがこの分類に入ります。私達人間は、普通の場合、踵で立っています。体重を前に移し踵を上げてつま先で立ってみましょう。背中が緊張し、長くは立っていられないでしょう。

 「起勢」という動作を考えてみましょう。まず最初につま先で立ちます。とても不安定な感じがします。体重を後ろに移動すると踵がついて身体が安定します。更に、背中を後ろに壁があると思って、壁にもたれかかるように少し後ろに移動します。踵への体重が更に増え、つま先が浮きそうになります。そこから、少し腰を沈めていくと、ますます身体は後ろに倒れそうになります。身体のバランスを取る為、無意識に両手が前に出ていきます。これが「起勢」における身体のバランスの状態だそうです。この間、背中は壁にもたれている感じなのでリラックスしています。

 

 人間の身体には、休む状態と緊張する状態があります。交感神経が働くと緊張状態になり、副交感神経が働くとリラックスするといわれています。交感神経は大部分が脊椎から身体の各部位に出ています。背中が緊張させることは、、交感神経を働かせる状況を作っていることになります。太極拳の動作では、ほとんど背面に意識を持ち、リラックスさせることで体を動かすように指導されています。これを守ることの大切さを改めて認識した練習でした。