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32.偏沈則随

 簡化24式の起勢(チーシー)が終わってから野馬分鬃(イエマフェンゾン)に移行する前の左足が浮くまでの動きを細かく見てみましょう。まず、右腰を沈めていきます。これにより上体は右に回転していきます。そして、右手も自然に上がっていきます。この上体が右に回転するのに合わせて左手を右手の下にボールを抱えるように掌を上にして動かしていきます。このことで、身体の重心は右足への移動を始めます。その動きにつれて左足の踵が浮いてきて、重心は更に右足に移り続けます。このように、偏って沈み込むと体がそれについてくるのです。このことを偏沈則随(ピェン・チェン・ツァ・スイ)といいます。

 左足踵が浮いてきた時点で、右肩、右手の肘、手首を順に緩めていきます。こうすることで、重心が右足にしっかりと乗るようになります。ほとんど右足に重心が乗った時、上体を起こすように意識すると、完全に右足に重心が移り、左足のつま先が浮いてきます。

 この動作を、横から見ていると、右足の踵に重心が移り右腰が少し沈んだように見えると思います。そして本人は、重心線が身体の真ん中を通り、右足の踵を通っていることを感じるでしょう。

 右足が安定していますので、左足はスムーズにうごかすことができます。この状態を「燕子奪巣(イエンズ・ドウオ・チャオ)」といい、ツバメがスッと巣を離れるように左足がスムーズに動くことを言うそうです。

 練習をするときには、起勢が終わった状態から上記の右足に乗り左足が自由になった時点から、左足を右足の真横、肩幅ほど開いたところに、右足のつま先と同じ方向にむけて足をつけ、上記と逆の動きをし、これを繰り返すことです。両足とも、沈み込んで立つことができると、とても気持ちが良くなります。

 

 この一連の動作の中で注意すべきことは、身体の動きを「下へ、後ろへ」という意識を持ち続けることです。更に、足が疲れて、しんどいときは、[上体を起こす]ことを心がけることです。