· 

53.残心

 武術と他の運動との違いについて、先生は「武術性」を持っていることであるとお話されました。武術性とは何でしょうか。武術性とは、攻防の技術、力の使い方、(武術家としての)精神性をいうとのことです。通常の運動は、「運動」と「気功」はありますが、武術性は含まれておりません。武術とは、「運動」、「気功」とともに「武術性」を持ったものを言うとのことです。

太極拳も武術ですから、武術性に繋がる概念として、先生は「残心」という言葉を教えてくれました。残心とは、技を発した後に、技を発した時の心を残すことを言い、気を抜かないと同時に、勝者として敗者を思いやる精神性をいうとのことです。太極拳は見えない相手に対して、このような精神性を持たなければならないということですが、私たちは、残心を持って太極拳を行うようになれるであろうかと先行きの長さが心配になりました。

  

 このような精神性を表す姿勢として「涵胸抜背(ハンシオン・バアベイ)」という言葉を教わりました。胸を拡げ、背中の力を抜くことという意味だそうです。この時に意識することは、「気沈丹田・神貫頂」(気を丹田に沈め、精神は頂きを貫く)であると言われました。この時の姿勢は下図のように、身体の前面は、気が上から下に降り、一方、背面は、気が下から上がるようになるとのことです。

先生は、この姿勢は「残心」と同じになると言われました。更に先生は、太極拳の動作の中で、特にこのことを意識し、姿勢を正すタイミングがあることを教えてくれました。それは、

  ①前に進む時:重心を後ろ脚に体重をかけたとき

  ②後ろに下がる時:片足になった時

  ③横に動く時:片足になった時

であり、その直前に姿勢を正すように教えてくれました。

 

 また、姿のことを「姿勢」と呼ぶのは、「姿」があって、その中に流れる精神及びエネルギーの「勢い」あるからであり、「勢」が「姿」を形作るのであって、「姿がきれいと言うことは、内を流れる勢いがあるということだ」とも教えられました。